理工学部 化学?生命理工学科 化学コース
教授 是永敏伸
有機合成、分子触媒、医薬品化学
岩手大学理工学部化学コースの是永敏伸教授と千歳科学技術大学の堀野良和教授の研究グループ(SPERC理論計算/情報科学に基づく分子開発研究グループ)は、アレニリデン金(I)中間体を経由するアルケンのシクロプロパン化反応の開発に成功し、従来考えられていた協奏的反応機構ではなく、段階的にシクロプロパン化反応が進行する事を計算化学で見出しました。本研究内容は、英国王立化学会(RSC)の Chemical Communications 誌に掲載され、表紙を飾りました。
本成果により、多くの天然物や生理活性分子に見られるシクロプロパン合成が容易になるとともに、新しい反応機構に基づいた効率的なシクロプロパン化反応の開発に繋がることが期待されます。
シクロプロパンは、多くの天然物や生理活性分子に見られる重要な機能部位であり、さらなる変換反応の原料としても使用されます。特にビニリデンシクロプロパン(VDCP)は、特異的な特性を有しているため、合成的に価値のある分子です。VDCPは通常、カルベンと不飽和化合物との[2+1]環化付加や金属触媒を用いて合成されます。その中で遷移金属アレニリデン種によるアルケンのシクロプロパン化はVDCPの合成に有効な方法ですが、金(I)配位アレニリデン種を介したアルケンシクロプロパン化によるVDCPの合成は未開発でした。
(Ph3P)AuCl/AgSbF6触媒の存在下、アルキニルスズ化合物とスチレンを塩化メチレン中、25℃で反応させると、目的のVDCPが高収率で得られることを見出しました(図、式A)。この時、さまざまなスチレン類縁体を用いても、反応は円滑に進行し(論文では10種類の合成を例示)、VDCPの優れた合成法であることが明らかになりました。(Ph3P)AuCl触媒が無い状態では反応が全く起こらなかった事から、金触媒の関与が実験的に示唆されました。金触媒は、まず原料のアルキニルスズ化合物をアレニリデン中間体Cに変換すると考えられました(図、式B)。続くシクロプロパン化の反応機構は、これまでの類似反応から、アレニリデン中間体Cに対してスチレンが協奏的に反応する一段階反応と考えられました(図、式C)。しかし計算化学により、アレニリデン中間体Cは共鳴構造のプロパルギルカチオン中間体Dであることが示され、この中間体にスチレンが付加し、生成したカチオン反応中間体を経て環化するという、二段階の反応機構であることが明らかとなりました(図、式D)。
題目:Synthesis of vinylidenecyclopropanes via gold(I)-catalyzed cyclopropanation of vinyl arenes with γ-stannylated propargyl esters
著者:Hiroto Mori, Yusuke Ono, Shota Nakagawa, Sota Akima, Miki Murakami, Toshinobu Korenaga, Tadashi Nakaji-Hirabayashi, Mayumi Kyogoku, Yoshikazu Horino
誌名:Chemical Communications (IF = 4.3)
公表日:2024.10.7
理工学部化学?生命理工学科
教授 是永敏伸
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